ジャブラニが描く軌道は、希望。
ブブゼラの激しい慟哭が響く。
優勝候補だったヨーロッパの青いユニフォームはそれぞれ、フランスとイタリアに進路を戻すことになった。
しかし、続けざまに敗退していくブルーのカタストロフィーは、ようやくその夜になって、アジアの極東島国が背負った小さなユニフォームの中の大きな野望によって、砕けて消えたのだ。
6月24日木曜日、ルステンブルク。
ロイヤル・バフォーケンスタジアムに最初の絶叫が訪れたのは、試合開始から17分が過ぎた頃だった。
右サイドから無回転のまま、35メートルを優雅に舞うジャブラニ。
およそ420分の時差を得て、僕らの目に飛び込んできたのは、そんなあまりにも美しい軌道だった。
日本の若き18番によって放たれたジャブラニが、セーレンセンの指先から逃れるようにして左のサイドネットに吸い込まれた瞬間、期待に深くえぐられた胸が、行き場を失くして音もなく破裂する。
それでもなお、僕らの絶叫は続いた。
最初のゴールからおよそ14分後にそれは二度目の頂点を迎え、後半の42分には、絶頂のピークを迎えたまま深い耽溺に沈んだ。
デンマークを相手に3-1。
理想を超える結果に、この興奮を形容する言葉すら見つからなかった。
それでも、だ。
日本のサッカー史上、(おそらく)最大級のビックマウスは違う。
試合終了後、サムライブルーの18番は、空気も読まずにこう言ってのけた。
「思っていたほど、嬉しくない」
驚きだ。
僕らの理想とする着地点よりも、その目は遥かに遠くを見ている。
きっと決勝トーナメントを一回戦で敗退する事になっても、彼らは惜しみない喝采と賛辞を受けるだろう。
でも希望は、無限。
本田の見ている理想に、僕らも歩幅をあわせないとな。