僕は彼女の運命の総括者であり、彼女は僕の人生の支配者である
六月十八日 快晴。
彼女の体に触れた瞬間、僕の理性は進入禁止の赤ランプをいとも容易く飛び越え、だからこそ、その甘美な蛮行へと耽溺していくのにまるで時間はかからなかった。
無遠慮な僕の指先が、あらかじめ決められたルートを辿るように彼女の体を下へと滑り降り、その感度を確かめるように激しく踊り続けている間も、或いは、その喘ぎがいっそうトーンを上げ、やがて乾いた質感の中で彼女が悪戯に母性を解放していく間も、僕の理性が再びその赤ランプを点す事はなかった。
それは、息つぎ不能なリビドー。
容赦も限度も介在しない、僕たちだけの静かなダイブ。
僕は決意を確認した。
一時の快楽に全身を委ねてしまうほど若くもないが 、とは言え、極上の興奮を無闇に看過するほど大人でもないのだ。
やがて、用意した結論が小さなポケットの中で僕を激しくノックしている。
解ってる。もう迷わない。
遥か遠方の過去。
キミとすれ違ったその瞬間から、この日が来る事を僕はずっと覚悟していたのだから。
「どうなさいますか?この子、最高でしょう?」
(うるさい)
(うるさい)
僕と彼女の間に、誰であろうと言葉を挟む事は許されないのだ。
「決めちゃいましょうよ。ふたり、すごくお似合いですよ」
(うるさい)
(うるさい)
(うるさい)
(うるさい)
「ください」
「はいっっっ!お買い上げありがと~ござ~ま~」
僕は用意したマスターカードをポケットから抜き出し、野暮な店員を一瞥しながら、彼女の頬を優しく撫でる。
「僕が、ここから連れ出してやるからね」
彼女は細く笑い、僕の両手の中でその高揚を歌声に変えた。
★★★★★★★★★★
彼女の名は、グレッチ・ナシュビル。
しなやかなボディで世の男性を虜にするアメリカ生まれの極上美人だ。
どうであれ、これから先、僕は彼女の運命の総括者であり、彼女は僕の人生の支配者となる。
じつに素晴らしいではないか。